カナディアンロッキーの旅(その2)

カナディアンロッキーの旅(その2) 

3.目的地の選定をする

広いカナディアンロッキーには,おそらく数百以上のトレイルがあり,見どころも一杯あると思います。その中から限られた期間内で,散策することができる素敵な場所を選定することは,なかなか大変です。

そこで,私達がどうやって見どころを選定して歩き回ったのかをお話しします。

私達がカナディアンロッキーを歩いた時期は,8月の夏休みとなる期間の約2週間でした。この時期は,裁判所も更替で休みとなり,ほとんど裁判の期日が入らないから山歩きには好都合です。2週間と言っても往復は1泊ずつ飛行機内泊となるから,概ね12日間がロッキー内で移動できる期間となります。

そこで,その間を前半と後半に分けて,広いカナディアンロッキーの中でメインとなる場所を決めて動きました。その時基点にしたのがカナディアンロッキーのナショナルパークの中にある山小屋(ロッジ)です。この方法はいろいろな山小屋(ロッジ)に泊まりながら付近の雄大な自然を楽しむという方法です。山小屋と言っても30人以上も泊まれるものもあり,小さな山岳ホテルのような印象を持ちました。これらの山小屋(ロッジ)にはヘリコプターで入山したり,馬で入山したり,ハイキング(かなり長距離となります)で入山したりします。このような楽しみ方をロッジンクと言うようです。

私達が参考にした「カナディアンロッキーハイキング案内」の中に,いろいろなロッジの案内があり,事前に予約をして行くことになります。概ね1週間単位で予定が組んであり,3泊4日または2泊3日でローテーションとなっています。勿論山小屋には定員制限があるので,同じ機会に入山したメンバーと一緒に付近の自然をゆったりと楽しむことができるのです。私達は1回の旅行で多い時には前半と後半に2箇所のロッジに泊まることもありました。でも大体は前半に1箇所のロッジに泊まり,その間隙をぬってカナディアンロッキーを車で移動しながら,ハイキングをしつつ山や湖を回るという方法をとりました。

私達がメインとして泊まった山小屋(ロッジ)は,①パーセルロッジ,②アシニボインロッジ,③バカブーロッジ,④ミスタヤロッジ,⑤フォートレストレイクロッジ,⑥シャドウレイクロッジ,⑦オールソンズロッジ,⑧ディクソンズチャーレーなどです。このうち①から⑤はヘリで,⑦と⑧は馬に乗って,⑥はハイキングで4時間から5時間もかけて入山するのです。ヘリで入山する場合は,近いところで約10分位,遠いところで40分位のフライトですが,ヘリからの景色が素晴らしく印象的でした。でもヘリを使うと滞在費が少々高くなるのが玉に疵です。馬での入山は5時間・6時間かけて目的地へ行きますが,途中でお尻が痛くなり,足がしびれてしまいます。でも日本ではなかなか味わえない乗馬体験でした。

そこで,各々の山小屋での出来事で印象深かったことをお話しします。

 

4.印象深いロッジでの出来事を語る

(1)トンキンバリーの2つのロッジ

私達が訪れたロッジの中で一番印象に残ったところは,ジャスパーナショナルパーク内にあるトンキン・バリー(Tonguin Valley)のオルソンズロッジとディクソンズ・シャレーです。この2つのロッジはいずれもアメジストレイク(Amethyst Lake)の東岸と北岸にあります。この湖はニジマス釣りで有名なところで,馬に乗って(これをホースバックライディングといいます)5時間から6時間かけて入山します。この2つのロッジはいずれもニジマス釣りとホースバックライディングを満喫させてくれることで人気があるようです。

ここでカナディアンロッキーでのホースバックライディングの説明を少ししておきます。私達はトンキンバリーのロッジで長時間乗馬をしながら入山をすることになっているロッジを案内文で知りました。そこで,乗馬の練習のため,私の事務所の近くの緑地公園の乗馬クラブに行って練習をしました。全く乗馬の経験がなかったからです。ここで教わったことは,馬の背中に乗りながら馬の歩行に併せて足で踏んばり,上下動をしてお尻を浮かせて乗る方法です。そうしないと歩くたび馬の背骨がお尻にあたり痛いからです。この練習を日本の乗馬クラブで3~4回してから,カナディアンロッキーのトンキンバリーへの登山口にある小さな牧場に車で行きました。ところが,そこで乗馬で移動する際教えてくれたことは,右に曲がる時には右手で,左に曲がる時は左手で手綱を引く,そして止まる時は両手で手綱を引くという,ごく簡単な説明をしただけです。そしてすぐに馬に乗って歩き出しました。日本で練習したように馬の歩行に併せてお尻を持ち上げなくとも痛くありません。それはカナダの馬は背中が広く,巾の広いサドルのため(ウェスタンサドルというらしいです)馬の背骨で下からつき上げられることがほとんどなかったからです(日本の馬は幅の狭いイングリッシュサドルがついていますから大変です)。でも5時間も6時間も馬に乗るとさすがにお尻や足がしびれてしまいます。でも必死に頑張って馬に乗って20km以上も山奥へ進み,目的地のアメジストレイクの麓のロッジにたどりついたのです。

この経験は衝撃的でした。これですっかり乗馬に慣れて好きになりました。馬は隊列に遅れそうになると軽くギャロップをしてくれます。残念なことに馬が全力で走り出すことはありませんでしたが,馬でカナディアンロッキーのメドウ(草原)の中を歩き回る楽しさを体験できました。話は変わりますが,最近韓国の時代劇で馬に乗り,全力疾走するシーンを時々見ます。あれは,かなり危険なことで,俳優さんが落馬して怪我をすることがあるそうです。でも一度位は馬で全力疾走してみたいと思ったものです。

ここのロッジでは,ウォーキングの他にフィッシングをするか,ホースバックライディングをすることがメインとなります。私達は当然ホースバックライディングを希望しました。ところが,その途中でカナディアンロッキーにいるグリズリー(灰色熊)に出会いました。グリズリーは立ち上がると2m近くにもなり非常に危険な熊です。馬と同じ位のスピードで走りますので,追いかけられたら逃げられません。

でも,この時は我々が馬で隊列を組んでいたので,我々に向かってくることはありませんでした。そのため,ビデオカメラでグリズリーを撮影することができました。その日の夕方,ナショナルパークを警備しているパークレンジャーがヘリで「グリズリーが出たから気をつけるように」と呼びかけていました。グリズリーにおそわれたら大変なことになるからです。ここでは”You are in Bear Country”と言われ,ナショナルパーク内に時々熊に襲われて死亡した人の石碑が残っています。

夕食には,その日に釣れたニジマスが焼かれていました。夜には釣りに来たメンバーの部屋でパーティーが始まります。私は日本の歌を歌いながら楽しくすごしました。ところが帰る時になり,釣りをしに来た親子連れが私のところへ来て,「来年もこの時期にアメジストレイクに来るから,お前も来ないか」と言うのです。私は笑って返事をせず,おみやげ用に日本から持って来ていた箸をあげ,お礼を言って別れました。この親子連れは,毎年ここに来てニジマス釣りをしているようでした。

トンキンバリーの2つのロッジ(合計2回行っています)でのホースバックライディングは,私達にカナディアンロッキーでの新しい楽しみ方を教えてくれたのでした。

(2)マウントアシニボインロッジでの出会い

次に,私達がすばらしい出会いを経験したのが,バンフナショナルパークから進み,隣のマウントアシニボイン(Mount Assiniboine)州立公園内にあるマウントアシニボインロッジでのことです。マウントアシニボイン(3618m)が間近に見えるこのロッジは,1928年に建てられたという伝統ある山小屋です。すぐ前にレイクメイゴック(Lake Magog)があり,景色の素晴らしいところです。

ここへの入山方法はキャンモア(Canmore)から車で42km程入ったヘリポートからヘリで(約10分です)入山するか,そこから約26.7kmを歩いて入山するかの方法です。私達は,往きはヘリで,帰りは歩いて下山する方法を選びました。26.7km歩くのはかなり大変でしたが,同時に下山する女性達と一緒に歩いたのです。(カナダの女性は背が高く足が早くてついていくのは大変でした)

ここのロッジで素敵な出会いがありました。私達がロッジの周りを散歩していると,スケッチブックを持って回りの風景を写生する熟年夫婦を見つけました。京子はそれを見て”Your hobby is good”と声をかけたのです。すると,男性が”Not hobby, professional”と答えました。彼はジャスパーのみやげ物店などで絵葉書きなどの絵を描いている画家だったのです。リタイアする前は地元の新聞社で風刺画などを描いていたということでした。名前をヤーデリーショーンズ(略してヤーデルといいます)といい,エドモントンに住んでいるということで,足の悪い奥さんのメアリーを連れてこの辺りの風景の写生をするために来ていたのです。

私達はすっかり仲良くなり,いろいろ話をしているとヤーデルが「私達の似顔絵を描いてやろう」と言い出し,私達の写真を撮り,似顔絵を日本へ送ってくれることになりました。ヤーデルがこの時描いて送ってくれた似顔絵は,私の事務所に今も大切にかざってあります。ほんとうはマウントアシニボインには登っていないのに登ったように描いてありますので,事務所に来た時に皆様には是非お見せしたいと思います。それ以外にもヤーデルの絵が何枚か飾ってあります。

この時の出会いが縁で,私達はカナディアンロッキーに来た時には帰りにカルガリーではなくエドモントンの空港から帰ることにして,前日には,ヤーデルの家へ遊びに行く予定を組み,合計4回程行きました。日本からのお土産に,京子の父親が収集していた日本の掛軸を持参すると,画家のヤーデルは大変喜んでくれました。夫婦には6人の子供がおり,独立して孫が10数人もいるとのことで,メアリーは「この家族全員が私の宝物だ」と言って写真を見せて自慢をしていました。その後しばらくは,クリスマスカードを交換していましたが,メアリーは亡くなり,ヤーデルも引越し,連絡がとれなくなってしまいました。でもカナディアンロッキーの旅で私達の忘れられない思い出の1つとなっています。