カナディアンロッキーの旅(その3)
5.カナディアンロッキーでの印象深い出来事を語る
(1)ホットスプリングスをめぐる
カナディアンロッキーの旅ではいろんな経験をしています。その中で,少し変わった出来事は,山歩きの後疲れた体を癒すのに都合の良いホットスプリングス(温泉)が各地にあり,山歩きの後そこに入浴しに行ったということです。
その中でも,町の名前が温泉そのものを表すラジウム・ホットスプリングス(Radium Hot Springs) が有名です。ゴールデンから,トランスカナダハイウェイ95号線を南に下り,93号線に合流したところにラジウム・ホットスプリングスがあります。山間にある,大きな温泉プールで,日本のひなびた温泉とは違い,水着を着て入り,泳ぐこともできるくらい大きな温泉プールです。ここで,入浴していた時,カリブーロッジのガイドスタッフで,我々を山歩きへと案内してくれたウェンディに会い,彼女も疲れた体を癒しに来ていました。山歩きで疲れた時にはホットスプリングスでの入浴は最高です。
それ以外にも,私達はジャスパーから東のエドモントンの方向に車で1時間位走ったところに,ミエッテ・ホットスプリングス(Miette Hot Springs) があり,ここの温泉プールにも入っています。雄大な自然の中にあるホットスプリングスは,ホテルでの風呂やプールとは違って,青空の下で開放感のある憩いの場となっています。レンタカーで移動していたため,各地のホットスプリングスめぐりが可能となるのです。
他にはバンフにあるホットスプリングス(Upper Hot Springsといいます)にも入っています。いずれもナショナルパークが管理・運営するもので安い入湯料で入ることができます。
(2)カナディアンロッキーの湖は美しい宝石のよう
カナディアンロッキーを旅する中で,色々な山や湖をめぐり,その周辺を歩いています。そこで感じたのは,湖の色の美しさということです。エメラルドグリーンの美しさを誇るエメラルドレイクや,透明で澄んだ色のボーレイク(ここでは湖の周辺をホースバックライディングで回りました)。それ以外にも乳白色がかったブルーの湖が至る所にあり,本当にきれいな色の湖が多いのです。しかもその色が場所により少しずつ違います。何が原因でこのような色になるのかわかりません。氷河や雪解け水が流れ込むと乳白色となっているのは,ヨーロッパアルプスでも体験していますが,カナディアンロッキーの湖の色はそこにブルーの色が混入しており,きれいな宝石のような色をしているのです。ところで透明で澄んだ色のボーレイクで,朝日があたる早朝には,色が乳白色変わって見えるのを発見しました。不思議な現象です。
(3)いろいろなアクティビティも経験しました
フォートレストレイクロッジは,湖のほとりにありましたので,ここでカヤッキングを体験しました。乗ったのは,二人乗りのカヤックでしたが,乗り込んでから足でペダルのようなものを踏み込みながらカヤックの後部についたヒレのようなもので方向を調整しながら進むようになっています。湖の中をカヤックでゆっくりと進んで対岸へ行き,そこから静寂な森の中を散策したのでした。
バカブーロッジでは,近くの小さな湖で参加者間のカヌー競争をしました。これも二人1組でチームを作り,右側用と左側用のオールを2人で分担して漕ぎ,早さを競うのです。2人で左右のバランスを取らないと素早くまっすぐに進みません。京子はアメリカ人の女性と組み,バランス良く進み,相手チームを圧倒しました。これは,ロッジの宿泊者同士が仲良くなる工夫でしょうか。終わった後は,キャンプファイヤーで交流を深めたのです。
カナディアンロッキーの中を流れるキッキングホースリバーでは,ラフティングを体験しています。大きなゴムボートに,ヘルメットとライフジャケットを着て,数名で乗り込み,急流を下ります。川の水は雪解け水ですから非常に冷たいですが,夏場でしたからあまり気にならず急流を下ることができました。でも途中,滝壺のようなところで,ゴムボートから降りて,近くの岩の上から川の中心に向かって飛び込むように言われました。私は挑戦しませんでしたが,京子はそれにチャレンジしたところ,「水の中は心臓が凍るかと思う程冷たかった」とのことです。キッキングホースリバーとは「暴れ馬の川」という意味でしょうから,何となく急流を下るラフティングの様子が想像できますネ。
バカブーロッジでは,ヘリハイクを体験しました。これはロッジの近くの山の頂までヘリでいき,そこからハイキングをするものです。下から歩いて山頂に行くのと違い,いきなり山頂まで連れて行ってもらい,山の尾根を歩くのですから,体力はあまりいりません。そこで,高山植物や小動物を探しながら,ゆっくり歩くのも楽しいものでした。その最中にモスキャンピオン(Moss Campion)という岩にへばりついて生えているピンク色の小さな植物を知りました。いろいろな高山植物の写真を撮りながら歩く熟年夫婦もいて楽しいものでした。
(4)小熊のベリーピッキングに驚く
フォートレストレイクロッジでは,驚きの体験をしました。私達が泊まっていた小さなテント風のロッジでのことです。明け方に外でごそごそと音がしました。風が吹いているのかと思っていたら,朝起きてみると外に置いてあった京子の登山靴の底がかみ切られていたのです。犯人は子熊でした。近くにはたくさんベリーが生えており,子熊がそれを食べに来ていたのです。やむを得ず京子は底の破れた靴をテープで補強して旅を続けたのです。カナディアンロッキーにはいろんなベリー(いちご)がはえており,ベリーピッキングを楽しむと聞いたことがありました。
6.最後にマウントロブソンでのキャンプ巡りをお話しします
(1)初めてのキャンプを体験する
私達はカナディアンロッキーでは主に宿に泊まりながらハイキングやトレッキング中心の旅をしていました。でもカナディアンロッキーで唯一キャンプを経験したことがあります。それがマウントロブソン(Mount Robson)のキャンプグランドでのキャンプです。
マウントロブソンは,カナディアンロッキー山脈の中では最高峰の山(3954m)で,1913年に初登頂されて以来,人気のある山となっています。
マウントロブソンへの登頂を目指すキャンプグランドまで行くには,登山口から歩くより方法はなく,途中,宿泊施設がないため,通常はテントの用意が必要となります。私達はテントを準備していなかったので,ロブソンアドベンチャーセンターに行き,そこからマウントロブソンが正面に見えるバークレイク(Berg Lake) のキャンプグラウンドまでヘリで連れて行ってもらうことを選択しました(勿論事前に予約しておく必要があります)。
ところが,指定された朝8時にアドベンチャーセンターに行ってみると誰もおりません。おかしいと思って中を覗いてみると,京子が「まだ7時だ」と叫びました。マウントロブソンはブリティッシュコロンビア(British Columnia)州にあり,私達がいた隣のアルバータ(Alberta)州より1時間遅いことに気が付いたのです。アルバータ州はこの時期,山時間(マウンティンタイム)で通常より1時間早いのです。しばらくして,7時半頃にガイドのBrentがやってきました。彼は,「我々が時間を間違えているかもしれない」と少し早めに来てくれました。
マウントロブソンは,ブリティッシュコロンビア州のマウントロブソン州立公園内にあり,東側はアルバータ州のジャスパーナショナルパークに隣接しています。通常バークレイクのキャンプ場へ行くには,ジャスパーから車で西へ約1時間と少しかけて登山口に行き,そこで車を降りて,山道を21キロ歩いて,目的地へ行きます。そのため往復するにはテントの準備が必要となるのです。
我々は,マウントロブソンのキャンプグランドでの滞在が旅の目的ではなかったため,キャンプ用品の準備はしていませんでした。そのため,アドベンチャーセンターのBrentにキャンプ用具の準備を全て委ねて,ヘリでキャンプグランドまで飛んだのです。
そこでテントを張り泊まることにしました。ここはバークレイクとマウントロブソンが正面に見える素晴らしいところでした。カナディアンロッキーの旅で初めてのキャンプの体験でした。
(2)マウントロブソン山頂がめずらしく晴れ渡る
翌朝6時半に起きて,マウントロブソンを見上げると,頂上付近にある雲が跡切れ,徐々に晴れてきました。しばらくしてBrentはUnbelievableを連発します。この辺は雨が多い地域で,なかなかマウントロブソンの頂上は晴れることがないらしく,ところがこの日は珍しく9時前頃には完全に頂上が晴れて山の全貌が見えたのです。
この日の午前中私達は,ロブソングレーシャーへ行き,氷河の上を歩きました。氷河の上は滑りやすくクレパスに落ちたら大変です。でも少しずつ氷河が迫り上がり,解けて小さくなっているのがわかりました。現在と昔の比較のため,数10年前の氷河の位置が表示されていたからです。地球の温暖化の影響が表れているのでしょう。
氷河から戻ってみると,昼食用のバーガーをカラスに盗まれてしまったことがわかりました。Brentは謝りましたが,我々は正直言ってテントでの食事には期待していなかったので気になりませんでした。
そして,その後,次のキャンプ地のホワイトホーンキャンプグランドに向かうことにしました。
(3)日本人の登山グループと出会う
その途中で,2人の日本人連れに出会いました。彼らのパーティーが「マウントロブソンで一番難しいと言われている南の壁面からの登頂を目指している」とのことで,相模原の山岳会のメンバーでした。しかし,「登頂隊と連絡がとれず心配だ」と言いつつ,「もし予定の時間を過ぎても戻らなければ,自動的に救援隊が出ることになっている」と説明してくれました。この日は登頂隊が山頂の直下で「ビバーグ」しているはずだとのことでした。
2日目のキャンプも何とか乗り切れました。我々は次の休憩地のキニーレイクへ向かって山を下りました。するとそこで前日の相模原の山岳会のメンバーが待機しており,登頂隊からの連絡を待っていました。その時交信が入り,「昨日の朝9時15分頃に登頂に成功した」との連絡です。思わず歓声が上がりました。メンバーは女性を含む6人で,3人が登頂を目指していたとのこと,丁度BrentがUnbelievableを連発したあの直後に登頂に成功したようです。2度目のチャレンジとのことでした。
さて,このキャンプ巡りで知らされたことは,自然の厳しさと偉大さです。これでもかこれでもかと自然は人間に迫ってきます。その中で人間は自然と共に生きていることを知らされた日々でした。
京子はそれ以来,「自分もマウントロブソンにチャレンジしてみたい」と言い出しており,「機会があれば」と考えているようです。
7.結びにかえて
カナディアンロッキーの旅は,一言でいえば,自然の中で生きている自分を知る旅でした。あまりにも雄大な自然に圧倒されながらも,そこにぽつんと存在している自分を感じながらの旅です。でもこの時にはまだ山登りにチャレンジするというより,「自然とどのようにかかわるのか」ということが目的の旅だったと思います。
その後はヨーロッパアルプスの山歩きを体験する中で,徐々に山登りの旅へと変化してゆきました。
私たちはカナディアンロッキーの雄大な自然に触れることができ,感謝したいと思っています。